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義仲戦記20「実盛死す!」

彼は馬上から、戦さの様子を見ていた。
彼はそんな自分が大好きである。
戦場をある程度見渡せる場所で戦いを見ていたが、今はどうやら味方が押されている。
勢いが無くなって来た。
と、ここまで考えて小さく溜息をつく。

(やはり味方は負けそうじゃのう)



今日は朝から源平両軍が激突した。
源氏にとってはどうか知らぬが、平家にとってはこの戦さ、勝たなければ北陸戦線の最後の戦いになるであろう事は間違い無い。
だからだろうか。
朝から正午頃にかけては平家方も良く戦い、源氏方と互角に戦っていた。

(影久、祐氏、重親、重直、奴らは一体どうなったか?)

彼はこの合戦の前に、毎晩呑み明かした戦友らの事を思う。

(討ち取られたのか?戦っているのか?)

分からない。
少し心が痛む。
思わず手綱を持つ手を強く握ったその時、何故か可笑しくなった。

「ふふ・・」

思い出し笑い。
鼻だけで笑う。戦友らの事では無く、自分の事で笑ったのである。

思えばつねに

「今度の戦さで討ち死にし、生きて再び都には帰らぬ」

と、事あるごとに言ってきた。
二年と半年前の合戦の時。
この北陸での出陣の前に平家の総帥である平宗盛に最後の暇乞いをした時。そして戦友らと酒を酌み交わした時。
他でも言ったかもしれないが思い出せない。

彼は思う、

(毎回毎回同じ事を言ってきて、よく自分で飽きなかったものだ。
聞かされている方は、さぞかしうんざりした事ではあろう)

顔を上げ戦場を見てみる。
先程とは状況が変わっていた。
味方の平氏方が敗走し、源氏方が追撃に移っている。どうやら勝敗が決したらしい。味方の軍の敗北である。



(そろそろワシの出番かのぅ)

のんびり考えている様だか、行動は素早い。
手綱を引き、馬を味方が敗走している方向とは逆に向け走らせる。彼はここからが自分の戦さと決めていた。
それは、ここまで戦い抜いた味方の退却を援護する為に、この命を捨てようと。

最後の戦さだ。

この時の為にわざわざ総帥平宗盛の許可を貰い、大将軍のような軍装と武具を身に纏い、髪や髭まで染めてここにいるのである。

(この歳になって若作りのコスプレをするとはの、まあ、人生で最初で最後のコスプレじゃ。好き勝手にさせて貰おうかの)

ことさらふざけた事を考えているが、その眼と表情は、歴戦の武将のそれに変わっている。


(参る!)

馬上で矢を続けて三本射る。
追撃して来た先頭の敵に二本当たる。落馬はしないが動きが止まる。
その後ろから別の敵が前に出る。二本射る。
当たる。落馬させた。
矢の残りを確認する。
朝からの戦闘では矢を二二本使用。今ので五本使用。
箙[矢を入れる道具]にはぎっちり三十本[通常二四本]いれて陣を出たので残り三本。

周りを見ると敵が自分目掛けて来る。
味方はだいぶ遠くまで退却出来たらしい。ある程度の防戦は成功した。


(やはり目立つのぉ。この格好は)


彼の今日の軍装は、赤地の錦の直垂[真っ赤で派手なシャツとズボン]、萌黄縅の大鎧[ライムグリーンの鎧]、鍬形を打った兜[五月飾りとかのアレ、ヘルメットの額部に大型の飾りが二本付いたもの]、金作りの太刀[黄金で装飾したバブリーな刀]を帯び、馬には金覆輪の鞍[これもやはり黄金で装飾したバブリーな鞍]を置き乗っている。

これは大将軍軍装であり、目立たない訳が無い。
しかも、爺いとナメられないように、髪と髭を黒く染めている。


敵が矢を射て来た。
顎を引き、上目遣いに敵を見つつ矢をやり過ごす。
囲まれる前に馬を回り込ませて敵を左に。
射られる前に残り三本射る。二本当てた。

矢を射尽くした。弓矢の戦さはこれで終わり。

同時に左方へ馬を寄せ、矢を射られないように間合いを詰める。
敵の武将と目が合った。


「あんた優しいな。味方の退却を援護する為に唯一騎残って防戦に努めるとはな。凄ぇよ。どういう奴なんだあんた。名乗ってくれよ」

敵の武将が言った。

(おお。若作り作戦成功!)

ナメられなかった。少し嬉しい。だが、声に出してはこう言う。

「そう言う貴方は誰か」

「信濃の国の住人、手塚太郎金刺光盛」


(お。諏訪の金刺盛澄どのの息子であったか)

手塚太郎光盛の父親とは知り合いであった。
格好を付けて言ってみる。


「ではお互いに良い敵だ。ただし貴方を見下す訳では無いが私は名乗らぬ。組み打ちだ。来い!手塚太郎!」

「おう!」

二騎の武将は馬を押し並ばせ肩でぶつかり合う。そこに手塚の郎等が駆けつけて主を討たせまいと間に強引に分け入って来た。

「おお?お前は日本一の剛の者とやろうってのか!」

言いながら手塚の郎等を掴んで引き寄せ、バブリーな金の鞍の前に押し付け、バブリーな金の刀で首をかき斬る。

次は手塚だ。左に廻られた。少し不利だが、気にしない。
左手の手綱を強く引き、右を敵に向けようとする。
その時手塚は刀を抜き、鎧の草摺[鎧のスカート]を引き上げ二回刺した。


(畜生!足やられた!だが喧嘩はここからよ!)


手塚に組みつかれた。
こちらも相手を掴むが足の踏ん張りが効かない。
手塚が押して来る。堪え切れずに共に落馬。

(まだまだぁ!)

心ではそう思うが、朝から戦いっぱなし。歳でもあり、手傷も負っている。出血も酷い。身体が動かない。力も入らず刀を取り落とした。



(ここまでか)



思った時には手塚の下に、仰向けにくみふされていた。
何故か空を見ていた。
晴れている。
痛みも無かった。雲が見えるが晴れている。

目の端に透き通った刀が見えた。

(綺麗なものだな)

そう思った。
手塚太郎はその武将の喉元に刀を押し付け、首を落とした。

斎藤別当実盛の一生はここに終わった。








その時、彼は誰かに呼ばれたような気がした。

「?」

何故か空を見上げた後、気になった方を見ると味方の武将がいる。
顔見知りだ。遠かったので大声で声を掛けてみる。

「太郎どの!手塚太郎どの!!」

「おーーーぅ!」

手塚太郎がこちらに気付き手を挙げた。そして、

「私はこれから本陣に戻る!お前は敵を追うのか!!」

手塚も大声で返してきた。
見ると首級を抱えている。敵の武将を討ち取ったらしい。


「はい!私も手柄を立てたいですから!太郎どののように!!」

手塚は苦笑いしながら、

「太郎どのは止せ!そう言うお前も太郎どのだろうが!
そうであろう!斎藤太!!」

斎藤太の駆け去っていく後ろ姿を見送った後、手塚太郎金刺光盛は先程討ち取った武将の首級を、その武将の着ていた錦の直垂に兜ごと包んで、義仲のいる本陣へと馬を駆けさせた。






加賀国[石川県]篠原。

平家方が義仲追討の軍を都から北陸へ差し向け、義仲軍が本格的に反撃に出てから約一カ月。その間、般若野、倶利伽羅、安宅と合戦を重ねて来たが、結果は義仲軍の連戦連勝。都を出発した時に十万騎以上いた平家方は、相次ぐ敗戦で三万騎にまで減らされていた。さらに篠原の合戦でまたも平家方は敗北。これにより北陸へ派兵された追討軍は壊滅した。

義仲軍は正に破竹の勢い、無敵と言って良かった。だが、馬上での光盛の表情は少し冴えない。勿論、義仲軍の大勝利は嬉しい。が、気にかかるのは今、手に抱えている首級の事。



(誰だったんだ?この武将は?
負け戦さでわざわざ唯一騎引き返し敗走する兵達を掩護していた。
そこら辺にいる並の侍に出来る事じゃ無い。
しかも何故、名乗らなかったんだ?何か訳でもあるのか?解らない・・・)

この事である。さらに、

(俺はこの武将を知っているんじゃないか?
見覚えもあるような、声も聞き覚えがあるような、いや、気のせいか?
しかし・・・)

とも感じていたのでより一層、

(誰なんだ?)

思いが強くなる。程なく義仲本陣へ着いた。

(とは言え、戦さには勝ったんだ。浮かない顔など見せられん)

と思いながら、馬を降り首級を抱え、郎等が上げてくれた陣幕を潜り、


「手塚太郎光盛、討ち取った首級を検分していただきたく参りました」

務めて明るい表情で光盛は声をかけた。

「おお。光盛か。御苦労だったな、どうやら我が軍の勝利だ。
皆が良くやってくれたからだな」

正面で床几に腰掛けていた武将が立ち上がり、笑みを浮かべながら光盛を出迎えた。この武将こそ木曽冠者源次郎義仲、後の朝日将軍源義仲その人である。
本陣は勝利の喜びに少し浮わついた雰囲気があったが、義仲は光盛を見るなり、

「? どうした光盛。何か気にかかる事でもあるのか?」

と聞いてきた。

(まったくこの人にはかなわない。どれだけ部下の事を良く見ているんだ)

光盛は思いつつ表情は自然な微笑みに変わっていく。
何か義仲は自分の事を理解していてくれると思うと、それがたとえ自分の勘違いだったとしても、何故か嬉しくなる光盛である。

「それが、先程私は敵の武将を討ち取ったんですが、その武将が少し奇妙だったんです」

「その首級のあるじがか?奇妙とは?」

義仲は光盛の抱えている首級に目を向けさらに聞いてきた。

「はい。この武将は唯一騎引き返して来て逃走する兵らを掩護していました。単騎で戦っていたので普通の侍かと思ったんですが、身に着けているものは錦の直垂に大鎧、しかも黄金の太刀に、馬には金覆輪の鞍。
これって大将軍の軍装ですよね?
しかし大将軍なら単騎で戦う筈が無いし、そこで名乗れと言ったんですが結局最期まで名乗りませんでした」

光盛は説明した後、首級を台の上に置き、錦の直垂の結び目を解きながら、

「言葉は関東のなまりがありました」

言いながら兜を被ったままの首級を義仲に見せると、しばらく首級を見つめていた義仲は、急に大きく目を見開き、


「まさかな・・・」

つぶやくと、

「兼光を呼べ。誰か樋口次郎を呼んで来てくれ」

義仲が言った。
光盛は振り返って自分の郎等に手で指図した。郎等は頷くと走り去る。
義仲は首級をじっと見つめている。まるで何か見落としが無いか確認するように、真剣に。

光盛は、
(義仲様も、この武将に見覚えがあるのか?だとするとやはり我々が知っている者なのか?)

と思っていた。やがて、

「樋口次郎兼光。参りました。何か私をお呼びとか?」

言いながら樋口次郎兼光が本陣に入って来た。

「ああ。良く来てくれた兼光。とにかく話は後だ。
先ずこの首級を見てくれ」

義仲が言う。

「はい」

兼光は頷き、首級を見た。



「!」



兼光の目が見開き、大きく息を飲んだ。



「これは・・・いや、この武将は斎藤別当実盛どのです」



暗い顔で兼光は答えた。

(実盛どのだったのか!私が子供の頃、諏訪に訪ねて来られた事があって確かに顔を会わせた事もある・・・)

「やはりな・・・何故か見覚えがあるような気がしていたが・・・
この御人はな光盛、私の父が討たれた時に私や母を護って信濃に連れて来てくれた、言わば命の恩人・・・」

義仲は少し悲しそうに言った。

「はい・・・」

光盛は返事をしたが、勿論その話は知っていた。
以前から何度も義仲やその周辺の者達から聞いていたのである。

「私は出来れば実盛どのを・・・」

義仲は悲しそうにつぶやいていたが、ふと何かを吹っ切るように普段の声で、

「確か私が昔、世話になった頃は、もう白髪混じりだった。
それなら今は、すっかり白髪になっている筈なのに髪や髭が黒いのはどういう事なんだ?
兼光は実盛どのと親しくしていたから何か言っていなかったか?
お前なら判るだろう。どうだ兼光」

兼光はじっと首級を見ていたが、尋ねられて、はっと顔を上げた。
その目が赤くなっている。

「はい。
思えば実盛どのは常に覚悟を語っておられたと、今になって判りました」

樋口兼光は斎藤実盛と親しくしていた頃を思い出していた。
実盛は兼光と会えば、いつも必ず酒の席に呼び、

「いいか兼光どの。ワシゃ六十を過ぎて戦さに出る事があればの、髪、髭を黒く染めてじゃな、若武者のコスプレをしようと思ってるんじゃ。
それはだな、その歳になって若ェ奴らと先陣を競うのも大人げ無いし、しかも爺ィとナメられんのもハラ立つじゃろ?
コラ!もっと呑め!兼光!
だらしないのぅ、これくらいの酒でもう酔ったのか?
もっと呑めんと強い武将にはなれんぞ!
分かったら呑め!兼光!ほれ!ぐっと、ぐ~っとじゃ!ワハハハハ!」

兼光は実盛との思い出を、義仲、光盛に語った。
語っている時の兼光は微笑みながらも目から涙が一条溢れていた。
兼光は続けて、

「まことに染めて出陣なさっておられたのですね。
実盛どのは。
・・・御首級を洗わせてみましょう」

と言った。
光盛は郎等らに命じて首級を洗わせてみると、髪も髭も白くなっていた。
まさしくこの御首級は実盛別当実盛だったのである。


「申し訳ありません。義仲様の御心を知りながら・・・」


光盛は義仲に頭を下げた。
すると義仲は、

「何を謝ることがある光盛。
お前は我が軍の勝利の為に戦っただけでは無いか。
良くやった光盛。
実盛どのは丁重に葬らせる。だから気にするなよ光盛」

光盛の肩に手を置き、穏やかに義仲は言った。
光盛は無言で、義仲と兼光に頭を下げ本陣を退出した。



あの御首級が斎藤実盛と判った以上、光盛にはやらなければならない事が出来た。

そこへ向かう途中だった。

「ドコ行くの?光盛」

呼ばれたので振り返る。
そこに鎧を纏い、武将の格好をした美少女がいた。
とは言え、もう少女とは言え無い年齢であるが、印象的には正に美少女としか見えない。
女武者用に特別に作らせた大鎧。腰のところの小札[鎧を構成する為に鉄などで出来た小さな板。これを繋ぎ合わせて鎧を作る]を減らし、極端に腰が狭まっている胴[上半身を守る為の鎧の部位]。袖[肩から上腕部を守る防具]も通常より一段多くしてあるので、一度見たら忘れられない姿をしている。
戦場から戻って来たのだろう、長い髪も今はほどいているので、鎧の上に髪がかかり、それが何とも言えず美しい。

「巴か」
その名も高き巴御前。
戦う美少女、巴であった。

戦場だというのに、いつも明るくしている。着ている大鎧は義仲が巴の為にオーダーメイドで作らせたものだ。
巴は、その綺麗な髪を揺らし、顔を傾げ言う。

「どぉしたの?何か難しい顔してる。
光盛が手柄を立てたって聞いたケド。何かあった?」

「別に手柄じゃ無いさ。それが先程な」

光盛は巴に、本陣であった事を話した。

「そっか。義仲様の命の恩人・・・」

考え込んだ巴だったが、ふと光盛の目を覗き込み、

「光盛。貴方マジメだから気にしてるでしょ。
大丈夫?今夜お酒とか付き合ってあげようか?」

と言った。少し驚いた光盛だったが、

「いや。俺の事はいい。
それよりも義仲様のそばに居てやってくれ。今夜はな」

巴の目を見て答えた。
光盛は続けて、

「義仲様は、実盛どのを何としても助けたかった筈だ。
それをこの俺が・・・
だから義仲様の御気持ちに寄り添ってやってくれないか?巴」

すると巴は、これ以上無い優しい笑顔で、

「そう言うトコが真面目なんだよ光盛は。解った。光盛の言う通りにする」

「義仲様を頼む、巴」
光盛は巴にも頭を下げた。

「うん。でも義仲様の命の恩人て言っても、敵の武将を討ち取った事には変わりない訳じゃない?
だから、あたしが御褒美をあげる」

巴は一転して楽しそうに言った。
どこか悪戯めいた目つき。

「は?・・何?・・・えっ?」

一瞬、惚けた光盛。
巴のノリについていけない。

「だから!あたしの秘密を教えてあげるの!」

「巴の秘密って何だよ、それ」

「あのね。あたしが好きな人の事」

「義仲様だろ。秘密でも何でも無いじゃん」

「そうだけど!違うの、あたしが好きなタイプって話し」

「だから義仲様だろ、それ」

「そうじゃ無くてぇ。もう!いいから黙って聞いて!」

巴は何か言いたい事があるらしい。
ムキになって話しを続けようとしていた。
一方、光盛は始め訳が分からなかったが、巴巴話しているとだんだん気がまぎれてきたらしく、相槌を打ちながら温順しく聞いている。

「勿論あたしは義仲様が大好き。特別な人だよ。
だけどそれは置いといてあたしがイイなって思うタイプがいるの」

「置いといくんだ」
(特別なら置いといちゃダメでしょ)

「そ。置いとくの。で、そのタイプを教えてあげる」

「はあ」
(御褒美ってソレすか。にしても秘密って何)


「三つあるの。一つ目は優しい人」

「優しい人」(義仲様じゃん)

「二つ目はいつも一生懸命な人」
「いつも一生懸命な人」(やっぱ義仲様じゃん)


「三つ目は
自分自身の事よりも義仲様の事を第一に考えてくれる人」

「それって、この軍にいる奴なら大抵そういう風に義仲様の事を思っているんじゃねえ?
俺はまた巴の事だから、自分よりも強い人とか言い出すんじゃないかと思った」

「あはは。ソレもあるかも。
でもね光盛が思っている程には、いないと思う。
それに近頃いろいろな人達が義仲様のところに来たから、その人達はどうなのかなぁ?って思ってたから、光盛が自分の事より義仲様の方を気遣ってるのを見たら、何か嬉しくなっちゃって。
それで御褒美」

「御褒美ね、教えてくれたのはありがたいが、秘密って何?
全然秘密じゃないような気もするけど」

「それはこんな事、人に言えないよ。
人に話したのも始めてだし。だから秘密なの!
いい?内緒だからね!二人だけの!」

「解ったよ」

光盛は大分、心が軽くなっているのを感じた。

「ありがとう巴。気遣ってくれて」

「あたしの方こそ。
何か不安に思ってる事を聞いてもらっちゃったみたいだし」

「あぁ、新しく来た人達ってやつか。
それはいいんだ。だけど意外だったな。
いつも明るくしてるから不安なんて無いと思ってた」

「何か失礼ね。
でもあたしだって不安に思う事くらいあるわ。
人には絶対見せないし言わないケド」

「だから秘密なのか。了解した。
じゃ何か吐き出したくなったら俺が聞くよ」

「ありがと。その時は光盛のトコ行くね。
それより最初の話しに戻るケド、これからドコ行くの?」

「ああ・・・」
光盛は現実に引き戻された気がした。



「斎藤太のところだ。実盛どのの事を伝えに」


巴は辛そうに、
「そうね。誰かがやらなきゃいけない事よね」

「ああ。だから俺が自分で行く。
じゃあな巴。これから本陣に行くんだろ?
義仲様の事、よろしく頼む」


光盛は、また巴に頭を下げ、斎藤太の宿所へと向かった。

巴は、その手塚太郎光盛の後ろ姿を、痛ましそうに見えなくなるまで見つめていた。