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義仲館
2022年4月4日 20:30
「嘘だろ・・・ そんな筈が・・・何故?・・」誰かが呟いた。稲津新介実澄、斎藤太[越前の武将]林六郎光明、富樫入道仏誓[加賀の武将]宮崎長康、石黒光弘[越中の武将]仁科次郎盛家、落合五郎兼行[信濃の武将]ら北陸と信濃の武将達は今、目の前で起きている事が理解出来無かった。茫然としていたのである。だが、これは戦さなのだ。何もしないで放心している暇など無い。しかし彼等は、そ
2022年4月25日 02:22
「この度、院[後白河法皇]より京中守護を命じられた。私はその任に当たる人選を一任され、既にこれを選定し、院の裁可を得た」義仲は、宿所として指定された六条西洞院の邸宅にある広い庭に居並ぶ武将達を見渡しながら告げた。武将達の顔には、いよいよ京での仕事が始まるに当たり、晴れやかで誇らしげな表情が満ちている。「これより名前を告げられた者らは、各々の郎等を率い、京中の警戒、狼藉者[犯罪者]の捕
2022年4月28日 20:30
「平氏が京を捨て、入れ替わって入って来た源氏らに、私が最初に命じた事が蔑ろにされておるのは気に入らん」寿永二年九月一五日。この日、御所殿上の間では朝廷の公卿らが集まり、後白河法皇御臨席のもと、会議が開かれていた。が、その冒頭、左右大臣の挨拶もそこそこに、御簾の内側から法皇の不満の御心の表明がなされた。いきなりの法皇の発言に、この場に集っている参議の公卿らは一瞬面食らっていたが、こうした事に
2022年4月29日 20:30
「これより我らは院宣を奉じ平氏一党の討伐を果すべく西海へ出陣する!出発!」後白河法皇より追討大将軍に賜る節刀を引き抜き、それを右手に高く掲げ、義仲は号令を発した。「「「おおおっ!!!」」」短く将兵らが応じ、義仲勢は第一軍大将海野幸広を先頭に出陣して行った。鎧の擦れる漣の様な音を響かせながら。寿永二年九月二十日正午。晴れ渡る秋の高い蒼穹に源氏を示す純白の旗を幾条も靡かせ、進軍し
2022年5月1日 20:30
水を打った様な静けさ、とはこの場の事を云うのだろう。誰もが息を呑んだまま、二の句を継げないでいた。播磨国[兵庫県南西部]加古川西岸に義仲勢は本陣を構えていたが、その本陣内部は沈黙には支配されていた。この静寂は、凶報を受けた驚愕により齎されたものであった。備中水島での搦手第一軍・第二軍の惨敗。 これは勝利する事に慣れていた義仲勢の諸将達にとって衝撃であり、また重く伸し掛かる事実でもあ