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義仲館
2022年3月27日 20:30
美しい夜であった。空は澄み渡り、一片の雲も無く、全天に星が瞬いている。冬の冴えた空気を吸い込みながら彼は、星を観ていた。一晩中、空を見上げて今夜でもう四日目になるが、彼は飽かずに星を観ている。 それは五日前の事。驚くべき報せがもたらされた。都で平家の総帥平清盛が、今月の二月四日、遂に亡くなったというのである。この清盛死去の報が入った日から、彼大夫坊覚明は依田城のある小高い山の上から、夜に星を
2022年3月28日 20:30
何度でも言う。勝った。と言うか大勝利であった。しかもこの合戦での勝利は、ただ単に戦さに勝った、という事実以上の意味があったのである。 この横田河原の合戦での義仲勢大勝利、という現実のインパクトは日本全体を揺るがした。特に北陸諸国、越後[新潟県]はもとより、越中[富山県]、能登[石川県]、加賀[石川県]、越前[福井県]の五カ国において、その影響は甚大であった。 それまでこの国[日本]での、
2022年3月30日 20:30
「稲津どのーーーっ!」呼ばれて顔を上げた稲津新介実澄[越前の中心的存在の武将]は、川の下流の方から馬を駆けさせて来る武将に向かい、手を挙げて応えた。「藤島どの!下流の堰の方はどうでしたか?」「大丈夫だ!順調に水が溜まっている!」藤島右衛門尉助延[越前の武将]は新介の横に馬を付けながら笑顔で答えた。「完成したのですね!」新介も笑顔で言うと、「そうだ!遂に出来たんだ!我らの城
2022年3月31日 19:14
↑ テーマソング「夜明けの将軍」「それはいけません!義仲様」一歩も退かない気持ちで今井四郎兼平が言った。「兼平の申す通りです。殿。これは我らにとって好機なのです。頼朝とはいつか必ず雌雄を決する時が来たでしょう。それが少し早まっただけの事です。迷う事はありません」大夫坊覚明も強い口調で言う。「第一、義仲様は敵の頼朝勢を信濃[長野県]の奥深くに誘い込む為に、ここ熊坂山[長野、新潟
2022年4月4日 20:30
「嘘だろ・・・ そんな筈が・・・何故?・・」誰かが呟いた。稲津新介実澄、斎藤太[越前の武将]林六郎光明、富樫入道仏誓[加賀の武将]宮崎長康、石黒光弘[越中の武将]仁科次郎盛家、落合五郎兼行[信濃の武将]ら北陸と信濃の武将達は今、目の前で起きている事が理解出来無かった。茫然としていたのである。だが、これは戦さなのだ。何もしないで放心している暇など無い。しかし彼等は、そ